2010/11/23
Nikon NewFM2
約15年前に新品で買ったNewFM2です。ついているのは35mm/f1.4、隣にあるのは50mm/f1.4。今では高くてそうそう買えない銘玉です。
生まれて初めて自分で一眼レフを買ったのは、中古のCanon AE-1/Pでした。それはAEと言ってもシャッター優先のみで、当時AEと言えば絞り優先となりつつあった頃たっだので、そうなのかぁ、じゃあ使いづらいなぁと思い、ステップアップのためにAE-1/Pを売却しNikon F4を買ったのでした。
ニコンの一眼で当時最高峰だったF4は、プロユースのために作られたものであり、報道、極地取材などありとあらゆる極限環境でも確実に動作し、多少の衝撃では壊れないという戦車みたいなカメラです。確かに丈夫だったですけど、重い。単焦点一本でいってもボディー自体が重いので、構えることが苦痛になってきます。フラッグシップ機を使っているという優越感でお釣りがくるほど期待したものが撮れなかったこともあり、AFにも楽しさを感じられなかったため、またF4は売却し、このNewFM2を買いました(この両極端さはどうか)。
シルバーボディのカメラはガラスなど反射する被写体を撮影する時は写りこむ事があるため、黒ボディの方がいいというのは昔良く言われたことです。でもやっぱり軍艦部が渋く輝くこのシルバーボディの方がカメラっぽいよなと思ったのでこちらにしました。買ってしばらくは、やっぱり黒が良かったなぁと後悔もしましたけれど。
このFM2で、とにかく撮りまくりました。主に撮ったのはモノクローム。荒木経惟氏に憧れ、街・日常・心象風景をテーマに毎日36枚撮りを何本も撮り、現像代もばかにならなくなったので自家現像とプリントもやりました。一日撮っては家へ帰って現像し、ベタ焼きしてはチェックしたコマを深夜納得いくまでプリントする、そんな毎日を繰り返し。
こんな事が出来たのも、前の会社を辞めてしばらくブラブラしていたからです。貯金が底を突く前に何かひとつ写真でものにしたかったという思いもあって、荒木氏を真似て自家プリントで写真集を作りました。いわゆる集大成です。それが出来た時は一切人に見せるつもりはなかったんですが、やはり誰かに認めてもらいたいという思いもあり、出版制作会社に就職面接を受けに行く時に自分の作品としてそれを持って行きました。
そこで言われたひとこと。
「アラーキーみたいな写真ですね」
この瞬間、もう写真は止めようと思いました。別に嫌だったわけじゃありません。むしろ嬉しかったくらいです。模倣に始まり、氏の書き物を読み漁り、写真展に来場していたご本人に会いに行き(確か握手していただいたはず)、次第にのめり込んでいった末に、これでもかと言うほど撮りまくり、シャッターを押した瞬間の感情が印画紙に見えるまで焼き続ける、その作業の果てに自分が壊れていく気がしてしまったんです。氏に似ていると言われたことで自分の中に区切りをつけ、もうこんな写真はやらないと決心し現像機材など全て売り払って普通のサラリーマンに戻ってしまいました。
それでもカメラは手放さなかったんですが、ジュラルミンケースに封印。それからフィルムカメラは衰退し、デジタルカメラにとって変わられ、私もデジカメしか使わなくなってしまいました。
あれから15年、色々な意味で、もう一度このカメラを手にするとは思いもしませんでした。カビを覚悟で先日久しぶりにケースから引っ張り出したら、なんとレンズには曇りひとつありません。ニッコールがすばらしいのかケースが余程密閉されていたのか、少し感動ものでした。ちょうどその頃買ったリバーサルとパンクロームのフィルムが残っていたので(!)、どんな写真が撮れるか今試しているところです。久しぶりに外界の空気に触れてカメラもびっくりしてるでしょうし、リハビリを兼ねてのんびり撮るつもりです。もちろん私自身のリハビリも。
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